大判例

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名古屋高等裁判所 昭和30年(う)946号 判決

論旨は、原判示第二の事実において被告人が野々部助十郎より同人振出にかかる額面金十七万二千円及び額面金十三万五千円の約束手形の割引方の依頼を受け、これを預かつた旨認定しているが、被告人が預かつた約束手形二通は野々部助十郎の振り出したものではなく株式会社野々部時計本店取締役社長野々部助十郎の振り出したものであるから、被告人が割引方を依頼されたのは右会社社長野々部助十郎であることが明らかであり、従つて原判決は被害者を誤つて認定したもので、この点において事実の誤認があるというにある。よつて、訴訟記録並びに原審及び当審において取り調べた証拠を検するに、原判決は被告人が時計商野々部助十郎より同人振出にかかる額面金十七万二千円及び額面金十三万五千円の約束手形の割引方の依頼を受け、同人のために預かり保管中と認定しているのであるが、司法巡査の撮影した約束手形(額面金十三万五千円のもの)の写真三葉並びに原審及び当審における証人野々部助十郎の各供述を綜合すれば、本件の約束手形は二通とも野々部助十郎個人の振出名義ではなく、株式会社野々部時計本店取締役社長野々部助十郎の振出名義であることが認められるのみならず、被告人に割引方を依頼したのも右会社社長たる野々部助十郎であり、被告人において割引を得た金は右会社社長たる野々部助十郎に引き渡すべきもので、被告人は本件手形を右会社社長たる野々部助十郎のために預かり保管していたものであることが認められるので、この点についての原判決の認定には誤があるといわなければならない。そして原判決の認定している野々部助十郎振出名義の約束手形と当審が認定した右会社社長たる野々部助十郎振出名義の約束手形とは同一の物であるとはいえ、約束手形たる性質上、振出名義に差異があるにおいては法律的には同一の手形であるとはいわれないので、その手形を客体とする横領の事実は訴因を異にすると認めるを相当とする。検察官は当審において、各約束手形の振出名義等について当審が認定したように訴因変更の手続をしたのであるが、変更された訴因は原審において取り調べた証拠からも窺われるところであり、右の訴因変更は公訴事実の同一性を害することなく被告人の防禦に何等実質的な不利益を与えることがないのみならず、その審級の利益を奪うこともないので、検察官の右訴因変更を許容すべきものである。而して、当審の認定した事実に徴すれば、原判決の認定に事実の誤認があることは前説示により明らかであるけれども、いずれも額面同額の約束手形二通を横領したという事実であるからその誤認は判決に影響を及ぼすことが明らかであるとはいわれないので論旨は結局理由がない。

(裁判長裁判官 石坂修一 裁判官 高橋嘉平 裁判官 大友要助)

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